「今回のデザインの目的は何ですか?」
「ブランドらしく、いい感じに見せることです」
便利な言葉です。いい感じ。
だいたいの希望をやわらかく包み、打ち合わせを前へ進めてくれます。
「万能調味料か」
ただし、設計図にはなりません。
「そのあと、見た人に何をしてほしいですか?」
ここで言葉が止まるなら、デザインを始めるのはまだ少し早いかもしれません。
誰に見せるのか。何を理解してほしいのか。その後、何をしてほしいのか。この三つを一文にすると、色、書体、写真、情報量、ボタン、レイアウトを選ぶための判断基準が見えてきます。
01
「いい感じにする」だけでは決められない
デザインの打ち合わせでは、感覚的な言葉がよく使われます。
- おしゃれに
- 高級感を出して
- 親しみやすく
- かっこよく
- すっきり
- インパクトを強く
- ブランドらしく
どれも必要な言葉です。雰囲気や方向性を共有するために役立ちます。
ただし、これだけでは具体的な判断が分かれます。
高級感を出すために文字を小さくした結果、案内が読めなくなるかもしれません。インパクトを強くするために写真と文字を増やし、何が重要なのか分からなくなることもあります。親しみやすくしようとして装飾を増やし、購入ボタンよりイラストの方が目立つ場合もあります。
「おしゃれ」と「迷わず使える」が衝突したとき、どちらを優先するのか。
目的がなければ決められません。
いい感じは方向です。目的は到着地点です。方向だけ見て走ると、かなり格好よく迷子になります。
02
誰に見せるのか
最初に考えるのは、見る人です。
年齢や性別だけでなく、どのような状況で見るのかを考えます。
- 初めて店へ来た人
- 商品を比較している人
- 急いで案内を探している人
- スマートフォンで見ている人
- 遠くからサインを探している人
- すでにブランドを知っている人
- まだブランドの存在を知らない人
- 日本語を第一言語としない人
同じ情報でも、相手と状況が変われば見せ方は変わります。
初めて来た人には、前提から説明する必要があります。既存顧客なら、新しい点や変更点だけでよいかもしれません。遠くから見る案内板なら、細かな文章は読めません。商品詳細ページなら、時間をかけて比較してもらえます。
誰に見せるかが曖昧だと、すべての人へ全部を説明しようとします。その結果、文字が増え、写真が増え、どこから見ればよいのか分からなくなります。
まず、今回もっとも見てほしい人を決めます。全員を排除するのではなく、最初に迷わせたくない人を選ぶということです。
03
何を理解してほしいのか
見る人が決まったら、何を分かってほしいかを絞ります。
店舗の案内なら、レジは右、受付は二階、この列へ並ぶ、本日は休業、といった具体的な情報があります。ECの商品カードなら、これはTシャツで、色は黒、背面プリントが特徴で、価格はいくらかを伝えます。
ブランド広告では、具体的な操作より、印象や価値観を残すことが目的になる場合もあります。
ここで重要なのは、情報を全部伝えることではありません。最初に理解してほしいことを決めることです。
文章が十個あるなら、十個を同じ大きさにしない。最重要情報を一つ決め、その次に必要な情報を順番に置きます。
「全部大事です」
分かります。
全員、一斉に前へ出ないでください。
すべてを一番大きくすると、結果として何も目立ちません。情報には優先順位が必要です。
04
見た後に、何をしてほしいのか
情報を理解してもらった後、何をしてほしいのかを考えます。
- 右へ進む
- 商品を手に取る
- 詳細ページを開く
- 購入する
- 問い合わせる
- 予約する
- 注意する
- 覚えてもらう
- 誰かへ共有する
- その場では行動せず、印象を残す
行動が分かれば、デザインの終点が決まります。
案内板なら、方向を示す矢印や位置関係が必要です。ECなら、価格、選択肢、購入ボタンが見つからなければ行動できません。注意表示なら、何を避け、代わりに何をすべきかが明確でなければ意味がありません。
「ブランドを好きになってほしい」のような長期的な目的もあります。
その場合も、今回の接点で何を感じてほしいかへ分けます。
- 信頼できそう
- 自分に合いそう
- 他と違う
- 続きが気になる
- 一度商品を見てみたい
行動は、必ずクリックや購入でなくても構いません。ただし、見た後に何が残れば成功なのかを決めておく必要があります。
05
印象を残すデザインと、行動させるデザイン
すべてのデザインが、すぐに行動させるためのものではありません。
ポスターや広告では、意味を一瞬で説明しすぎず、印象を残すことが効果的な場合があります。高級ブランドでは、情報を抑えた表現が世界観を作ることもあります。
一方、避難案内、料金表、注文方法、問い合わせボタンでは、分かりにくさは価値になりません。
ここを混ぜないことが重要です。
美しいが読めない料金表。分かりやすいがブランドの印象を壊す広告。どちらも、目的と表現がずれています。
今回は印象を残す仕事なのか、行動を助ける仕事なのか。先に決めます。
もちろん両方が必要な場合もあります。その場合は、一つの画面へすべてを詰め込むのではなく、体験の順番へ役割を分けます。最初の広告で興味を持ってもらい、商品ページで内容を理解してもらい、購入画面で迷わず行動できるようにする。各場面で目的を変えます。
06
一文にできると、削るものが見える
目的を一文にしてみます。
たとえば、
初めて来店した人に、受付が二階にあると理解してもらい、階段へ進んでもらう。
この一文があれば、受付の場所、階段の方向、文字サイズが重要だと分かります。ブランドの長い説明や、小さな装飾は後回しにできます。
ECなら、
スマートフォンで商品一覧を見ている人に、背面プリントが特徴の黒Tシャツだと気づいてもらい、詳細ページを開いてもらう。
必要なのは、背面プリントが見える画像、商品名、価格、クリックできるカードです。
目的が言葉になると、何を足すかより、何を消せるかが見えてきます。
デザインは、要素を増やす作業だけではありません。関係のないものを断り、重要なものへ場所を渡す作業でもあります。
「これも入れておいた方が安心です」
安心のために情報を足し続けると、最重要情報が埋もれます。入れるか迷ったときは、目的の一文へ戻り、その要素が理解や行動を助けるかを判断します。

07
デザインを始める前に、目的を書く
デザインを始める前に、次の形で一文を書きます。
誰に
何を理解してほしくて
その後、何をしてほしいのか
たとえば、
初めてサイトへ来た人に、5th Designが実務デザインのメディアだと理解してもらい、興味のあるシリーズを選んでもらう。
展示会の来場者に、新製品の特徴を短時間で理解してもらい、スタッフへ声を掛けてもらう。
商品を受け取った人に、洗濯時の注意を理解してもらい、誤った乾燥方法を避けてもらう。
この一文は、公開するコピーではありません。制作側が途中で判断を戻すための基準です。
文字を大きくするか。写真を増やすか。英語を使うか。説明を削るか。意見が分かれたとき、目的へ近づく方を選びます。
いい感じにすることは、もちろん必要です。
しかし、何のためにいい感じにするのかが分からなければ、完成後の評価もできません。
誰に、何を、どうしてほしいのか。
デザインを開く前に、一文だけ書いてみてください。その一文が、最後まで判断を戻せる場所になります。