「データでは隙間なく合っています」「印刷では少しずれます」。画面上で境界を完璧に突き合わせたことが、現場では白い線の原因になる場合があります。
多色印刷は、色ごとの版を順に重ねます。機械、素材、温度、搬送などの条件で位置がわずかに動くことがあるため、境界を少し重ねて破綻を目立ちにくくするのがトラッピングです。ただし万能な数値はなく、印刷方式と入稿先の仕様が優先されます。
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ぴったり合わせたのに、白い線が出る
二色の形を完全に接して作ると、版がわずかに離れた方向へずれたとき素材色が見えます。白い紙なら白線、色布ならボディ色の線です。
ズレをゼロにする前提だけでなく、ずれたときに見えるものを設計します。

たとえば濃紺の面へ赤い文字を突き合わせると、版が離れた側に素材色が髪の毛のように現れます。紙なら白、色付きの布ならボディ色です。境界を原寸で見て、どちらの版を少し潜らせれば主役の輪郭を崩さず隙間を隠せるかを決めます。
02
多色印刷にはわずかな版ズレがある
ズレの量と方向は設備や素材で変わります。紙、フィルム、布では搬送や伸びも違い、同じ設定を流用できません。
許容値を記事だけで断定せず、仕上がりサイズ、版、素材を伝えて印刷会社の推奨を確認します。
紙のオフセット、シルクスクリーン、フィルム印刷では、素材の伸びと搬送方法が違います。印刷会社へ仕上がり寸法、色数、素材、細い抜きの有無を渡し、想定する見当精度を聞きます。「前回0.2mmで出た」は別設備の保証にならないため、今回の条件へ戻します。
03
トラッピングは、ずれても破綻しにくくする逃げ
トラッピングは一方の色をわずかに広げ、境界へ重なりを作る考え方です。ズレを消すのではなく、素材色が露出する幅を減らします。
重なりが濃い線に見える場合もあるため、色の濃さと境界の形を見て適用範囲を選びます。
トラップ幅を広げれば安全になるわけではありません。重なりが太い縁や濁った第三の色として見えれば、別の破綻です。境界の長い直線、細い文字、目立つ顔の輪郭など、見え方へ影響する場所を優先し、分版と合成プレビューを往復して決めます。
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スプレッドとチョークの考え方
一般にスプレッドは前景側などの形を外へ広げ、チョークは背景側を内側へ寄せて重なりを作る考え方です。呼び方や処理方向はワークフローで確認します。
細い文字や小さな形では、広げる方向によって太さが変わって見えます。主役の輪郭を保つ側を基準にします。

なお、どちらの色境界を動かすかを条件で選ぶことは一度の確認で永久に確定するとは限りません。現場変更、材料変更、数量変更があれば前提も動きます。変更連絡には影響箇所を添え、済んだ確認をどこまでやり直すか判断できるようにします。
小さな白文字の周囲をチョークすると、文字の内部空間まで細くなる場合があります。反対に前景色をスプレッドすると、細い線が太って見えます。保ちたい輪郭を先に決め、薄い色を濃い色の下へ潜らせるのか、背景側を寄せるのかを選びます。
05
オーバープリントとは同じではない
オーバープリントは下の色を抜かずに上の色を重ねて印刷する設定で、重なり部分の色が変わります。トラッピングは境界の一部へ逃げを作る考え方で、同義ではありません。
意図しないオーバープリントは文字や白要素を消す原因にもなります。分版プレビューと出力先の確認を行います。
コストを比べる場合も、トラッピングとオーバープリントの目的と結果を区別することだけの単価で決めません。手直し、現場滞在、再輸送、保守まで含めた総負担を見ると、設計時の小さな余白や試作が安い保険になる場面は少なくありません。
トラッピングとオーバープリントの目的と結果を区別することの条件を厳しくしすぎると、別の工程へ無理が移ることもあります。余白を増やせば外形が大きくなり、部品を分ければ継ぎ目が増えます。局所的な正解ではなく、全体の負担が最も小さい案を探します。
Illustratorのオーバープリントプレビューと分版プレビューで、各版を一枚ずつ表示します。白オブジェクトへ誤ってオーバープリントが付くと、出力時に消えることがあります。「画面には白がいます」。分版では、いません。設定名ではなく、版に形が残っているかを見ます。
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どの色を広げるかは条件で変わる
濃い色の輪郭を保つ、薄い色を下へ潜らせるなどの考え方はありますが、すべての組み合わせへ同じ処理はできません。特色や透過性でも重なり色は変わります。
自動設定へ任せきらず、重要な境界を拡大し、分版で各版の形を確認します。最終設定は入稿先と合わせます。
レビューでは、色の濃度、形、印刷順、製版条件で処理を選ぶことを設計者以外の人に説明してもらう方法も有効です。説明できない箇所は資料の情報が不足している可能性があります。作る人、運ぶ人、使う人の順に読み替えると、同じ図面から別の抜けが見つかります。
検品項目には、色の濃度、形、印刷順、製版条件で処理を選ぶことが満たされているかを観察できる方法を書きます。「問題ないこと」では判定できません。寸法、写真、動作、見本との比較など、合否を同じ基準で見られる言葉へ変えます。
一般には薄い色を濃い色の下へ広げると境界が目立ちにくい場合がありますが、透明インクや特色では重なり色が変わります。印刷順とインクの隠蔽性を確認し、重要な境界だけを手動で調整します。自動トラップは働き者ですが、ロゴの意図までは知りません。
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完璧に合わせるより、ずれたときまで設計する
画面上の一致は基準ですが、物理工程には変動があります。トラッピングは雑さを許すためではなく、変動の中で見た目を守る仕組みです。
作れる入稿データとして、処理の有無、対象、確認済みの印刷条件を指示書へ残します。
トラッピング設定前の確認
- 印刷方式:オフセット、シルクなど方式と版の作り方、素材の伸縮条件を入稿先へ伝える。確認した資料名と日付も残します。
- 推奨値:一律の数値を流用せず、仕上がり寸法と設備に合う設定を印刷会社へ確認する。数値だけでなく判断した理由を添えます。
- 境界:白い隙間が目立つ色の組み合わせと、輪郭を守りたい主役形状を特定する。未確定なら担当者と回答期限を記します。
- 分版:各色版の形、重なり、ノックアウト、意図しないオーバープリントをプレビューする。現物で再確認するタイミングを決めます。
- 細部:小さい文字、細線、抜きが広がりや縮みで変形しないか原寸で見る。変更時に影響する次工程も併記します。
- 校正:可能な範囲で本番条件に近い校正を行い、処理内容を最終指示書へ記録する。納品後に参照できる場所へ保存します。
トラッピングは数値を入れて終わる機能ではありません。どの輪郭を守り、どこへ逃げを作るかを印刷条件と一緒に決めます。完璧なデータを、変動に耐えるデータへ変える考え方です。
製作用データには、トラップを入れた場所、幅、対象版を記し、確認用PDFには仕上がりの見え方を残します。再入稿で色やサイズが変わったら、以前のトラップをそのまま流用せず再計算します。境界の逃げは、今回の版と素材に合わせた製作情報です。
実務では、ロゴ全体へ一律のトラップを掛けるのではなく、境界の種類を分けます。大きな色面同士、細い文字と背景、小さな白抜きでは、同じ幅でも見え方が違います。重要な輪郭は手動で調整し、目立たない内部境界は自動処理を使うなど、確認時間を主役へ配分します。
入稿前には、合成表示だけでなく各版を単独で出力し、意図しない細片や途切れがないかを確認します。確認用PDFにはトラップが見えにくいため、製作担当へは分版見本も添えます。再版時に別の印刷機や素材へ変わるなら、前回の設定値ではなく新しい見当条件から決め直します。
最終的な合否は、境界を拡大した画面だけで決めません。原寸で少し離れて見たとき、白い隙間も重なりの濃い縁も目立たず、主役の形が保たれているかを見ます。トラッピングは見せる効果ではなく、版が動いたときにも意図した形を残すための静かな余白です。
試刷りができる場合は、主要な境界だけトラップ幅を数段階に変えた小さなチャートを余白へ入れます。素材と設備で最も自然に見える幅を選び、本番データへ反映します。数値を聞いて終えるより、今回の色と素材で見えた境界を基準にできます。
トラッピングを入れない場所も意識して決めます。写真の内部や複雑な網点へ機械的に適用すると、細部が濁る場合があります。版ズレで素材色が見える危険と、重なりで輪郭が変わる危険を比べ、必要な境界だけへ処理を限定します。
境界の処理を終えたら、トラップなしの確認用データも保管します。印刷方式が変わったとき、元の輪郭から新しい条件へ調整できるためです。